離婚は、私たちの生活の中で最も身近な法律上の出来事の一つといえます。
しかし、それだけ身近な問題でありながらも、離婚にまつわる具体的な法律の仕組みについては、あまり知らないことが多いのではないでしょうか。

離婚を進めるにあたって取り決めなければならない事柄は、想像されるよりも実際にはずっと多いです。
不貞の慰謝料や財産分与といったお金に関する事項のほかにも、夫婦間に未成年の子どもがいる場合には、親権、養育費、面会交流などの取り決めも必要になります。

ここでは、離婚について概要を説明したうえで、離婚におけるお金の問題と子どもの問題について解説します。

離婚はどんな場合でもできる?

離婚は、どんな場合にでもできるわけではありません。

まず、夫婦がお互い離婚に同意している場合には、「なぜ離婚したいのか?」という離婚の理由は問題とならず、いつでも離婚可能です。

しかし、夫婦の一方が離婚に同意しないために裁判所を通して離婚を求める場合には、法律で定められた「法定離婚事由(ほうていりこんじゆ)」が存在することが必要となります。反対に、この法定離婚事由があると認められない場合には、離婚できません。

法定離婚事由とは?

法定離婚事由には、以下の5つがあります。この条件のうち、いずれか一つでもある場合には、離婚が認められます。

①不貞行為があった場合
妻や夫以外の人と浮気・不倫をして、性的関係を持った場合、その相手は離婚を請求することができます。

悪意の遺棄があった場合
特に理由もなく、夫婦の同居義務や協力義務、または扶助義務に違反する場合にも、離婚ができます。
例えば、夫が妻に生活費をわたさないケースや、妻が病気の夫を残して家を出ていってしまったなどのケースがこれに当たります。

③3年以上、生死不明な場合
3年以上も、生存も死亡も確認できない状態が続いている場合にも、離婚が可能です。
ただ、「居場所はわからないが生きていることは確実だ」というケースは、これに当たらないので注意が必要です。

④回復の見込みがない強度の精神病である場合
配偶者が重い精神疾患にかかり、回復の見込みがなく夫婦関係を維持できない場合にも、離婚が認められることがあります。
ただし、実務上はこの事由で離婚が認められることはあまりありません。

⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由がある場合
性格や価値観の不一致、多額の借金、DV、ギャンブルなどの問題がある場合は、これに当たります。実務では、これが最もよく見られる離婚事由となります。
ただ、これは「その他」という語感からしてもふわっとした抽象的な離婚事由のため、この条件に該当するかどうかについては、個別具体的に検討しなければなりません。

例えば、単に「性格の不一致があるから」というだけでは足りず、「性格の不一致がきっかけで何年も別居している」、「性格の不一致がきっかけでこんな激しい喧嘩がずっと続いている」など、具体的な出来事をきちんと主張する必要があります。

有責配偶者からの離婚請求は原則できない

しかし、たとえ法定離婚事由の①~⑤のどれかがあった場合でも、有責配偶者から離婚を請求することは、原則として認められません。有責配偶者とは、離婚の原因を作り出した張本人のことをいいます。

例えば、「愛人と結婚したいから妻と離婚したい」と夫が希望している場合、不倫という離婚の原因を作り出した夫からの離婚の請求は、原則として認められません。

ただし、長期間の別居などによって夫婦関係が完全に破壊されている場合には、有責配偶者からの離婚が認められるケースもあります。

以上が、そもそも離婚ができるかどうかという問題です。

次に、実際に離婚を進めるにあたって最も重要な「お金の問題」と「子どもの問題」について、見ていきます。

離婚におけるお金の問題

離婚において、もっとも重要なテーマの一つがお金の問題です。離婚の際にお金に関することで特に問題となるのは、財産分与、慰謝料、婚姻費用、養育費です。

なお、ここでは詳しくは取り上げませんが、夫婦のいずれかが厚生年金に加入していた場合には、年金分割の手続きによって将来受け取る年金を分け合うことも可能です。

離婚にあたっては、夫婦がそれまで協力して築いてきた財産を分ける必要があります(財産分与)。
また、離婚の原因によっては、夫婦の一方から他方に対して慰謝料を請求することもあります。
さらに、離婚が成立するまでの生活費(婚姻費用)や、離婚後の子どもの生活にかかる費用(養育費)も重要な取り決め事項です。

ここでは、離婚にともなう「お金の問題」について説明します。

1.財産分与について

財産分与とは、夫婦が結婚中に協力して築き上げた財産について、離婚に際して夫婦間で分けることをいいます。

対象となる財産

財産分与の対象となる財産としては、土地や建物、預貯金、自動車、家財道具、生命保険などがあります。夫婦の共有名義の財産(共有財産)はもちろん、一方の単独名義の財産であっても、結婚後に夫婦が協力して築いた財産は財産分与の対象となります。

これに対して、夫婦の一方が結婚前から持っていた財産(例えば結婚前の預貯金)や、結婚後に相続で取得した遺産などは、夫婦が協力して築き上げた財産とはいえませんので、財産分与の対象となりません(特有財産)。

なお、別居後に形成された財産は、すでに夫婦の協力関係が失われた後の財産ですから、財産分与の対象とならない点に注意が必要です。

財産分与の割合

財産分与の割合は、夫婦それぞれが財産の形成や維持にどの程度の貢献したのかという観点から決められますが、一般的には夫婦で平等に1/2ずつとされます。

例えば、妻が専業主婦で収入がゼロであっても、その家事労働が評価されますので、1/2ずつの財産分与とされることが原則です。

2.慰謝料について

慰謝料とは、離婚によって受けた精神的な苦痛に対して支払われる賠償金のことをいいます。これには、離婚によって夫または妻の地位を失うことによる精神的苦痛の賠償と、離婚の原因となる有責行為(不貞、暴力など)による精神的苦痛の賠償、という2つの内容が含まれています。

慰謝料が認められる場合

慰謝料の請求が認められるためには、相手の行為が「違法」であることが必要です。例えば、不貞や家庭内暴力は違法な行為ですから、慰謝料の請求が認められます。

他方で、精神的な苦痛を感じていても、相手の行為が違法でない場合には、慰謝料の請求は認められません。例えば、性格の不一致などは相手の違法な行為がないため、慰謝料請求は認められないのが一般的です。

慰謝料の金額

精神的な苦痛というものはなかなか金額で評価することが難しく、裁判で認められる金額も事案に応じて様々です。
裁判における相場観としては、例えば不貞行為が原因で離婚となった場合、認められる慰謝料の金額はおよそ200万円から300万円といわれています。
なお、実際には裁判になる前に話し合いで解決するケースも多く、その場合はこの金額よりも低い水準で合意することが通常です。

3.婚姻費用

婚姻費用とは、婚姻中の共同生活を維持するために必要な費用で、いわゆる生活費です。具体的には、衣食住の費用、医療費、子どもの養育費、交際費等です。
例えば、会社員の夫が専業主婦の妻と子供を残して別居した場合に、妻は自身と子供の生活費を夫に対して支払うように請求することができ、これが婚姻費用の請求です。
婚姻費用の請求は、別居開始時まで遡って請求することができます。一方、別居状態が解消されたり離婚が成立した場合には、それ以降の生活費は請求できません。

婚姻費用の金額

婚姻費用の金額は、世帯の収入や同居する子の有無など、個別具体的な事情を考慮して算定されます。
ただ、実務上は裁判所が示している「算定表」という簡易な表に基づいて判断されるのが通常です(「算定表」は、裁判所のホームページに掲載されており、誰でも見ることができます)。

もっとも、この算定表はあくまで便宜上のものであり、例えば子供が私立小学校に通っていて学費がかさむなど特別な事情がある場合には、この算定表を用いて金額を算出することは適切ではありません。

4.養育費

養育費とは、子の監護に関する費用であり、子を引き取る親から引き取らない親に対して請求されるものです。
具体的には、子どもの衣食住の費用、医療費、教育費、娯楽費など、子どもの生活に必要な費用がこれにあたります。

養育費はいつまで支払うのか

養育費をいつまで支払うのかについて、調停等で決められる場合には、高校を卒業する18歳まで、成人する20歳まで、大学を卒業する22歳まで、の3つのパターンが多いです。

養育費の金額

養育費についても、上記の婚姻費用と同じく、裁判所が公表している「算定表」に基づいて金額が決められるのが一般的です。

強制執行も可能

養育費は、毎月の支払いを長期間にわたって行うものですから、支払いが滞ることがよくあります。その際には、「強制執行」という手続きをとることで、相手の給料や預貯金、不動産などを差押えてその支払いを強制的に行わせることができます。

離婚における子どもの問題

離婚にあたって未成年の子がいる場合、夫婦のいずれか一方を「親権者」としなければなりません。
また、親権を譲った側が、離婚後に子と定期的に会うことを希望する場合には、離婚にあたって「面会交流」の取り決めをすることが一般的です。養育費については、上記のとおりです。

1.親権者について

親権者とは、未成年の子を監護教育し、その財産を管理する権利義務を負う人のことです。
離婚の場面について言えば、子どもを引き取る親のことをいいます。

未成年者の子がいる場合には、離婚に際して、必ず夫婦のどちらか一方を親権者と定めなければならず、夫婦の両方を親権者としたり、離婚した後で親権者を決めるというようなことはできません。

親権者を決めるには

親権者は夫婦間の協議により決めることができますが、合意ができない場合には、家庭裁判所の調停や審判、裁判によって決めることになります。

裁判所が親権者を決める基準

裁判所が親権者を決める際には、夫婦それぞれの事情、子の事情など様々な事情が考慮されます。その中で最も重要なのは、夫婦のどちらを親権者とすることが子の福祉にとってベストか、という視点です。どれだけ親が子のことを愛していても、客観的に見て子のためにならないと判断されれば、親権者となることはできません。

親権者の決定に際して、実務で考慮される事柄には以下のようなものがあります。

①夫婦の事情
監護の意欲(子に対する愛情の程度)、監護の能力(収入、資産、親の年齢、健康状態、実家からの援助等)、生活環境(自宅、学校等)など

②子どもの事情
年齢、性別、子の意思、兄弟姉妹の関係など

2.面会交流について

面会交流とは、子を引き取らなかった親が子どもと会って、親子として交流することをいいます。
親権と異なり、面会交流については、離婚に際して必ず決めなければならないものではありません。
しかし、子を引き取らない側の親としては、離婚後は親権者側と話し合う機会があるとは限りません。そうなると、連絡が取りにくくなることが多いことから、離婚に際してできる限り面会交流についての取り決めをしておくことが望ましいです。

面会交流が認められる基準

面会交流がどの程度認められるかについては、「子どもの福祉にかなうか否か」という点に尽きます。
面会交流は、父または母のために行われるものではなく、あくまで子どものために行われる制度です。その制度の目的からして、子どもの利益に反するような面会交流は認められません。
子が面会交流を望んでいるか否かをもっとも重視した上で、他にも様々な事情を総合的に考慮して、どのような面会交流が適切か判断することになります。

離婚問題には夫婦特有の難しさがある

離婚は、夫婦という最も距離が近い人間関係の中で生じるだけに、いったん紛争化した場合には、熾烈な感情的対立が生じることも少なくありません。「早く離婚したい」という感情が先行して、必要な事柄について十分に取り決めをしないまま離婚してしまい、後々トラブルになってしまうこともあります。

そのほかにも、住宅ローンの扱い、DVや子の連れ去りなど、離婚に関連して頭を悩ませる問題は少なくありません。もし離婚問題でお悩みならば、一度弁護士にご相談されることをお勧めします。