経営者の皆様にとって、一番身近な労務の専門家といえば社会保険労務士ではないでしょうか。社会保険の諸手続き、就業規則の更新、36協定の届出や新しい人事評価制度の導入など、日常的な労務課題の相談先として社会保険労務士とお付き合いがある方は多いかと思います。

ですが、ひとたび組織内で労務関係のトラブルが発生した場合には、選択肢の一つとして、弁護士への相談を検討してもよいかもしれません。

では、弁護士へ相談すべきトラブルとは、具体的にどういったものが考えられるのでしょうか。一般的に起こりやすいトラブルについて、以下でご説明します。

雇用契約書

新しく従業員を雇い入れる際には、雇用契約書を作成します。これは会社と従業員との間に契約関係が成立したことを示す証となり、原則としてそこに記載された条項はお互いを拘束します。

会社側は「雇いたい」、求職者側は「雇われたい」ので、雇い入れの時点では問題が表に出てこないことがほとんどです。しかし、ひとたびトラブルが発生すると契約書の記載に関する問題が表面化します。

その雇用契約書の雛形、リスクがある可能性も

社内で使用している雇用契約書のひな形が、実はいざというときに役に立たないものになっているかもしれません。
トラブルを一度でも経験された経営者様はもちろん、今のところそういった経験のない経営者様も、転ばぬ先の杖として、弁護士によるアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。

なお、雇用契約書の条項自体が法令違反の可能性を含んでいるケースも少なからず存在します。例えば、会社オリジナルのひな形を10年以上前から繰り返し使用しているなどの場合には、一度弁護士によるチェックを受けて、ひな形のリニューアルを行うことをおすすめします。

就業規則

就業規則は社内の基本的なルールであり、雇用契約書と併せて会社と従業員との間の約束事として機能します。

日々の仕事で意識することは少ないですが、普段何気なく行われている会社の活動もすべて就業規則に則って行われるのが、会社としての本来あるべき姿です。
しかし、実際には現場単位の独自ルールが存在したり、規定ぶりが曖昧でその場限りの解釈判断が乱発されたりと、就業規則と実態とがそぐわないケースは多々あります。

曖昧な就業規則はトラブルのもとに

もし組織内でトラブルが起きた場合には、必ずと言っていいほどまずは就業規則の規定を確認することになりますが、そのときに、就業規則と現状とのギャップがあればあるほど適正な対処をするのが難しくなります。

本業に打ち込んでいると就業規則を見直す時間はなかなか取れないとは思いますが、暗黙のルールのようなものが増えてきたなと感じるときは、就業規則の改訂を検討してはいかがでしょうか。その際は、就業規則関係事例の対応経験豊富な弁護士への相談がおすすめです。

なお、就業規則に紐づく規程として、例えば賞罰規程や旅費規程などを別途詳細に定めることで、より精緻に会社の在り方を整えることもできます。過去にこれらの規定の適用でトラブルになった経験のある場合は、再発防止のためにも当該規定周りを見直すことはとりわけ有意義でしょう。

労災事故

どんな職場であっても労災事故は起こり得ます。例えば、製造業であれば工場事故が典型ですが、営業車両の交通事故も労災事故に当たり得ますし、屋内でのデスクワーク中心のビジネスであっても、過度なストレス負荷による精神病やいわゆる過労死も労災事故と認定される可能性があります。そのため、会社を経営する以上、経営者の皆様は労災事故の発生を常に頭に入れておかなければなりません。

労災事故が発生した際は、労働基準監督署に報告を行うことになりますが、こういった行政対応自体に誤りがあってトラブルになるケースや、事故発生時の対応不備による感情的なもつれからトラブルが顕在化するケースもあります。

また、労災事故による損害は労災保険でカバーされる部分とされない部分が存在しますので、従業員側から労災保険外の損害の賠償を求められるケースも想定されます。

労災事故では初動対応が何より重要

このように、労災事故がトラブルにまで発展してしまうことは意外と多いのですが、労災対応は通常業務外の突発的なものがほとんどであり、現場レベルで対処に追われているうちにトラブルの火種が大きくなってしまい、結局、本格的なトラブルになってから弁護士に連絡するというケースが非常に多い印象です。

トラブルの火種を大きくしないためには、たとえ小さな事故であったとしても、初動の事故対応段階から弁護士に報告を行うことをおすすめします。弁護士が「対応の必要あり」と判断した場合には、早期に事実関係を把握して対応を開始することで、通常業務からの切り離しを図り、経営者の皆様が本業に集中できる状態を回復できるように努めてくれるはずです。

ハラスメント

パワハラ、セクハラなど、「◯◯ハラ」と呼ばれる「ハラスメント」は、今では職場におけるトラブルを表す一般的な用語となりました。

経営者の皆様は、ハラスメントという用語が一般化した頃から、社内で起こるあらゆるものがハラスメントと言われかねない状況になってしまい、会社運営に「やりにくさ」を感じてはいないでしょうか。実際、何かにつけてすぐに「ハラスメント」と叫ぶ従業員もあらわれて、上長による十分な教育や指導ができなくなったというお悩みをよく耳にします。

それが本当にハラスメントならば適切に対応しなければならない問題となるのは当たり前ですが、そうではない微妙なケースであっても、ひとたび顕在化するとほぼ確実にトラブルに発展するのがハラスメントです。

ハラスメントかどうかの判断は難しい

こういったハラスメントに対しては、対応の初期段階より弁護士が関与することが肝心です。ハラスメントは判断基準が極めて曖昧で、担当者の個人的な経験に頼るのみでは限界があります。そこで、多くの会社と付き合いがあり同種事案の紛争対応を経験してきた弁護士の知見が役に立ちます。

なお、最近ではハラスメントを事前に防止するために、経営者の皆様をはじめ従業員の方々が定期的にハラスメント防止に関するセミナーを受講するという対策を講じている会社も多く見られます。ご要望がありましたら、弁護士法人大樹法律事務所ではこういったセミナーの講師も承ります。

解雇

労働法の度重なる改正により、日本の労働法制は労働者有利、つまり、労働者の権利が強く保障されるに至っています。従業員を解雇するには法律で厳しい条件が課されていて、ある従業員の言動に問題がある場合でも簡単には解雇できないというのが、現在の労働法の在り方です。

とはいえ、会社も社会における一つの共同体である以上、組織や従業員みんなのためにルールが存在します。そして、そのルールに違反する行動が際立つ従業員については、組織や他の従業員のために、時として解雇するという苦渋の決断をしなければならない場面が出てきます。

解雇をできるかどうかは非常に繊細な問題

では、具体的にどういった場合に解雇が許されるのでしょうか。実は、この判断はとても難しい問題を含んでいます。

というのも、例えば、経理部所属の従業員が金庫から現金を横領し、有罪判決が確定したような極端なケースであれば解雇が許されることはほとんど疑いようもありません。ですが、上長の指導に従わない、入社当初から遅刻を繰り返す、他の従業員とトラブルを起こしてばかりである、即戦力として採用したはずがほとんど未経験並みのスキルしかないといった、いわゆる問題がある社員を「当人の性格や資質によって解雇すること」は、よほどのことがない限り適法なものとはならないのが現状です。

このように、解雇については、経営者の皆様の実感と労働法における労働者保護の考え方との間に少々ギャップがあり、この認識の差がトラブルを大きくしてしまう場合があります。

解雇については、労務の分野においても非常に慎重な対応が求められる問題です。解雇についてお悩みの場合、まずは弁護士にご相談いただけると適切な解決策を見つけることが可能となります。