弁護士法人大樹法律事務所では、取扱業務の中でも特に企業法務を得意分野の一つとしていて、企業における日頃の何気ないご相談から法的トラブルまで、これまで幅広く対応してきました。
多くの顧問先や企業と関わっている中で、経営者の方や担当者の方から「実は今このようなことで困っている」と相談されることも少なくありません。
ここでは、特によくいただくご質問を取り上げ、起こりやすいトラブルとその予防策を5つ、Q&A形式で解説します。
よくあるご相談
Q2:無料求人広告だと聞いたから広告を出したのに、請求書が届いた
Q3:退職した元従業員が、取引先に営業をかけて顧客を奪っている
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1:取引先から一方的に単価を引き下げられた。これには黙って応じるしかないの?
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必ずしも応じる必要はありません。一方的な価格引き下げは下請法に違反する可能性があります。取引先の立場が強いことを背景にして、中小企業に不利益を押しつけることは法律で禁止されています。まずは「これは違法な要求ではないか?」と疑ってみましょう。
解説
大手取引先との関係で、人件費や原価があがっているのに、取引先が値上げの話し合いに応じてくれないケースや、場合によっては「単価を下げてほしい」と告げられるケースは少なくありません。
下請法やフリーランス法では、優越的な地位にあることを利用して中小企業に不利益を押しつけることが禁止されています。なお、下請法は2026年1月から、中小受託取引適正化法に名称が変更されます(この略称を取適法といいます)。取適法で禁止されている事項
この取適法では、価格を一方的に決定して話し合いに応じないことのほか、次のようなことが禁止されています。
- 発注内容を書面で明示しない
- 納品から60日以内に代金を支払わない
- 必要なくなったとして、納品を受け取らない
- 発注後、一方的に単価を減額する
このような場合は、「取適法という法律ではこうなっていますよ」ということをやんわりと伝え、ここを一つの糸口にしてはどうでしょうか。取引先としても、「法律のルールなんて知りません」と完全に無視するのはなかなか難しいでしょう。
取適法では保護される範囲が拡大した
下請法の適用対象は資本金要件のみでしたが、取適法では従業員の人数の要件も追加されました。また、業種として、運送の委託も追加されています。その結果、今までの下請法では保護されなかった企業についても、この取適法によって新たに守られる対象になる可能性があります。
「いままで取引先との関係で言えなかったけれど、こういうことで困っていた」ということがありましたら、「取適法では実はこうなっていまして」ということを示すことで、取引先との交渉や問題解決ができる場合があります。
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2:「無料で求人広告を掲載する」という営業があったけれど、何か気をつけることはある?
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後日いきなり高額な請求を受けることがあります。特に申込書に小さい文字で、「自動的に有料掲載になる」と書かれていることがあります。申し込む前に、書かれている内容を良く確認してください。
解説
電話やファックスで、「無料で求人広告を掲載します」という営業が来ることがあるようです。「無料だと思って申し込んだら、あとでいきなり請求書が来た」というトラブルが発生しています。
こういった類の商材は、「無料広告とはいっても、一定期間無料で広告を掲載し、一定期間経過後に有料になる」という仕組みであることが多いようです。このような説明をちゃんと聞いたうえで、「無料で掲載してくれる期間だけ掲載してもらって、有料になる前に解約すれば良い」と考えて契約したけど、解約を忘れていて料金を請求された、ということがあります。また、場合によっては、無料期間経過後に自動的に有料掲載になる、という説明がされないこともあるようです。
必ず申込書を隅々までチェックしよう
掲載申込みの書類は、無料掲載期間の経過後は自動的に有料掲載になること、その際に業者から連絡はないこと、解約するにはこのようにしなければならない、という解約方法の指定などが小さい文字で書かれていて、それを了承したうえで申し込みます、という体裁になっていることが多いです。ですので、仮に口頭での説明がなかったとしても、申込書には自動的に有料に切り替わると小さく書かれているため、「それを了承して申し込みました」という不利な書類が残ってしまいます。
有料掲載に切り替わって請求書が届き、「こんなはずではなかった」とトラブルになったあとで弁護士に依頼したり裁判になったりすると、相当なコストがかかってしまいます。
無料だからと申し込むその前に、書類を良く確認しましょう。ほとんどの場合、無料のサービスには無料である理由があります。心配であれば弁護士に相談頂くのが確実です。
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3:退職した元従業員が、当社の取引先に営業をかけて客を奪っているけれど、これを止めることはできる?
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あらかじめ辞める従業員から誓約書を取り付けておき、違反行為に対して弁護士から警告書を送ることが有効です。弁護士が警告書を送ることで、自分自身で約束したことに違反した自分の行動が把握されている、これはマズいと思って自発的に止めることがあります。もし、誓約書を取り付けていない場合は、不正競争防止法の適用を検討します。
解説
従業員が退職後、持ち出した顧客リストや技術資料をもって競合他社に転職したり、自分で会社を立ち上げたりすることがあります。
不正競争防止法という法律では、開示された営業秘密を不正の利益を得る目的で使用することが禁止されており、差止めを請求することもできます。
ただ、不正競争防止法の「営業秘密」と言えるためには、秘密として管理されている必要があります。
例えば、パソコン上のデータであれば、パスワード等でアクセスが制限されていることが必要です。データでなく紙の情報として管理されている場合は、マル秘等秘密であることがわかるようになっており、それをみることができる人が制限されていることなどが必要です。誰でも見られる情報は、不正競争防止法では「営業秘密」として保護されない可能性が高いのです。
誓約書を取り付けることが最も確実
このように、不正競争防止法で営業秘密を保護するのはハードルが高いので、会社と従業員の間で、「これらの情報を使ったこういう行為は禁止します」とあらかじめ誓約書で合意しておくことが有効です。
営業職の方であれば、「退職後会社の取引先に営業活動をすることを禁止する」、技術職の方であれば、「会社の図面やデータの持ち出しを禁止する」、という誓約書を入社時に取り付けておくと、有効な対策になります。
さらに、誓約書違反の行為が判明した場合には、弁護士から警告書を送ると効果的です。仮に、入社時や退職時に誓約書をとっていなかった場合には、ハードルは高いですが、不正競争防止法で対応できないかを検討することになります。
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4:うちの会社は昔から取締役が3人だったので、このままでいい?
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会社の運営実態にあわせて、取締役を1人にした方が良い場合もあります。以前は、会社を設立するには取締役が3名必要でしたが、現在は会社法上、取締役が1名の会社も、取締役会がない会社もO.K.になりました。会社の実態にあわせた組織にすることで、不要となった手続きを減らすなど、形式的な手続きの負担を減らすこともできます。
解説
会社における取締役は、会社の経営幹部です。以前は法律上、会社の取締役は3名必要でした。そのため、取締役を3名揃えないと会社を設立できず、経営には関わらないけど名義だけ貸してもらう、ということが行われていたこともありました。
現在では、株式会社であっても取締役会がない会社もO.K.で、取締役が1名だけの会社もO.K.となりました。
形だけの取締役は組織の足かせになってしまうことも
取締役が3名以上で取締役会のある会社だと、一定の事柄を決めるためには取締役会を開催する必要があります。他方で中小規模の会社では、複数の取締役が集まって取締役会を行う、ということは運営上の負担が大きく、実態にあわない場合も少なくありません。
その場合は思い切って取締役会を廃止し、取締役を実際に会社運営にあたる幹部経営者に絞る、ということをした方が良い場合があります。とくに相続などで会社経営者や株主が交代すると、それまでの人間関係が変化することがあります。いままでは問題にならなかったことも、人間関係が変化することで経営に支障が生じる問題となる場合があります。人間関係が変化する前に、会社の経営体制を実態にあわせておく、ということは相続対策として重要です。
実際には会社の経営に関わっておらず、名義だけの取締役になっている方がいらっしゃったら、いまのうちに会社の組織面を見直してはいかがでしょうか。
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5:株式を子ども達に平等に分けたいが、何か問題はある?
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実は単純に等分すると、経営の意思決定が滞るリスクがあります。経営を引き継ぐ後継者には議決権のある株式を、他方で経営に関わらない子には議決権のない株式を引き継がせるなど、議決権の配分を工夫することで、会社経営の安定と家族関係の調和を両立することができます。
解説
オーナーの持っている株式をどのように引き継いでいくか、というのは難しい問題です。兄弟で仲良くやってほしいというお気持ちから、株式を平等に引き継がせるというケースも良くみられます。
しかし、兄弟で会社経営についての考え方が違ってきた場合、会社経営が困難になってしまう危険があります。例えば3人兄弟の場合、会社の後継者とほかの2人の意見が食い違ってしまうと、後継者の考える経営ができなくなってしまいます。
では2人なら大丈夫かというと、2人で半分ずつ株式を持ち合うのもおすすめできません。株主総会において、普通の議案については「過半数」によって決定されます。つまり、2分の1ずつ持ち合っているときに意見が食い違うと、どちらも過半数をとれない、ということになります。株主総会で取締役を選任することもできなくなるので、何も決めることができない、という状況になってしまいます。
後継者に株式を集めると、財産承継がアンバランスになってしまう、ということや、税務面の節税対策を考慮して、ほかの子ども達にも株式を分けたい、ということもあるかもしれません。その場合は、後継者には議決権のある株式を、後継者以外の子どもには無議決権株式を承継させることで、経営に関する決定権を分散させることなく、バランスの良い財産承継をすることもできます。
企業のトラブルの多くは突然。弁護士なら事前に対策できることも
企業を経営していると、「大手取引先との価格交渉」、「従業員の転職・独立と顧客・ノウハウの持ち出し」など、思いもよらない法律問題に直面することがあります。しかも、こうした問題は一度発生すると解決に時間も費用もかかり、経営そのものに影響を及ぼすことも少なくありません。また、長期的に安定した経営を目指すのであれば、会社組織の仕組みや株式の承継にも目配せをする必要があります。
重要なのは、問題が起きてから慌てるのではなく、事前に備えることです。契約書の内容を確認したり、秘密保持や競業避止の仕組みを整えたりすることはもちろん、会社組織を現状に合った形に見直すことも有効です。こうした取り組みによって、多くのトラブルを未然に防いだり、リスクを小さくすることができます。
私たち大樹法律事務所では、中小企業の経営者の方から日々寄せられるご相談に対応しています。地域に根ざした企業の法務パートナーとして、「これは相談してよいのかな?」という段階でも安心してご相談いただけることを大切にしています。小さな不安や疑問のうちにご相談いただければ、トラブルを未然に防ぎやすくなります。お気軽にご相談ください。
