相続が開始されると、亡くなった人(被相続人)の財産は、まずは相続人全員の「共有」という状態になります。この共有のことを「遺産共有」といいます。
ただ、この遺産共有の状態では、預金の払い戻しや不動産の名義変更をすることができませんので、どの財産が誰のものになるのかについて、しっかりと確定させる必要があります。
この遺産共有の状態を解消して、個々の遺産がどの相続人のものになるのかを確定させる手続のことを遺産分割手続といいます。
ここでは、遺産分割手続きの概要と注意した方がよいポイントについて、説明します。
遺産分割の方法
亡くなった人が残した遺産を分ける方法としては、主に次の3つの方法があります。
①現物分割
預金や現金、株や投資信託、不動産などについて、そのまま現物で分ける方法のことです。
例えば、「長男が自宅を相続し長女は預金を相続する」ケースがこれに当たります。
②換価分割
不動産や貴金属などを売却してお金に変えてから、そのお金を分ける方法のことです。
例えば、「自宅を売却して、そのお金を姉妹で半分ずつに分ける」ケースは、この換価分割に当たります。
③代償分割
ある財産を相続人の一人が引き継ぎ、その代わりに他の相続人にお金を支払うという方法のことです。
例えば、「長男が自宅を相続し、その代わりに長男が次男にお金を支払う」ケースが代表的です。
この3つ方法のうち、どれを選べばよいかについては、相続財産の種類や相続人全員の意向や生活状況などによって大きく異なりますので、一概には言えません。
分ける割合はどうなるの?
遺産分割において、遺産を分ける割合については、実は絶対的な基準はありません。
相続人の全員の同意さえあれば、亡くなった人の遺言を尊重してもいいですし、法律で定められている法定相続分に従って分けても構いません。つまり、相続人全員の同意がある場合に限っては、その意思が最優先され、柔軟に自由な割合で分けても全く問題はありません。遺言や法定相続分はあくまで目安でしかないわけです。
ただし、相続人のうち一人でも反対すれば、自由な分割はできず、下記で説明する家庭裁判所での調停や審判にて、遺言や法定相続分に従った分割になります。
一部だけを先に分けることもできる
遺産の一部のみを優先して分割することも可能です。遺産全体の分割の合意には時間がかかりそうなときに、居住用の不動産や家業に関する財産を優先して分割したり、あるいは現金や預金のみを先に分割したりすることがあります。
ただし、家庭裁判所での審判による分割においては、他の相続人の利益を侵害する場合には一部の分割はできません。
後から見つかった財産は再分割が必要
遺産分割が終わった後に、預金や不動産が新たに見つかった場合は、その財産についてもう一度遺産分割をやり直さなければなりません。このような事態は、遺言がある場合にある財産が遺言の記載から漏れていたり、相続財産の調査の際に完全に調べきれていなかった場合に起こります。
遺産分割協議
遺産分割は、相続人の間での協議によって行うのが原則です。この相続人間での協議のことを遺産分割協議といいます。
遺産分割協議では、どの財産について、誰が、どれくらいの割合でもらうのかを決めなければなりません。
この遺産分割協議には、相続人全員の参加が必要とされているため、一人でも欠けていると協議は成立しません。
また、相続人全員が参加していても、全員がその最終的な協議内容に合意しなければならないため、一人でも反対する人がいる場合には、協議は不成立となります。
遺産分割協議書を必ず作ろう
遺産分割協議では、その協議結果についてまとめた「遺産分割協議書」を作成することが一般的です。実は、法律上はこの遺産分割協議書を作成することを求められているわけではありません。
しかし、現実には、不動産の所有権の移転登記や預金の払い戻し、株式の名義変更などの手続きを行なう際には、この遺産分割協議書が必ず必要となります。協議がまとまった場合は、遺産分割協議書を必ず作成するようにしましょう。
もし記載の内容に不備があると、そこから先の手続きにうまく進めなかったり、後日トラブルになってしまうこともあるため、弁護士や税理士といった専門家に作成してもらう方が安心です。
遺産分割協議がまとまらない場合
上記の通り、相続人の中で一人でも反対する人がいる場合には、遺産分割協議を成立させることはできません。
このように遺産分割協議がまとまらない場合や、そもそも協議を行なうことができない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
遺産分割調停の申し立て
遺産分割調停とは、裁判所が相続人の間に入って、遺産分割の話し合いを進めてくれる制度のことです。
家庭裁判所という第三者が間に入ることで、話し合いがまとまりやすくなるメリットがあります。
しかし、この調停という制度はあくまでも話し合いですので、裁判所が仲介しようが結果的にまとまらない場合もあります。
そういった遺産分割調停がまとまらなかった場合には、自動的に次のステップである遺産分割審判の手続きへ進んでいきます。
遺産分割審判への移行
遺産分割調停が不調に終わった場合には、遺産分割審判の手続きへと移行します(最初から遺産分割審判を申し立てることも可能ですが、一般的にはまず遺産分割調停を申し立てることが通常です)。
遺産分割審判とは、裁判所が遺産分割の方法について、強制力のある決定を行う手続きです。遺産分割協議や遺産分割調停のような話し合いとは異なり、強制的に結論を出すことになります。
この手続きでは、法律に規定されているとおりに遺産分割されていきますので、話し合いの場合のように柔軟な結論に達しないケースも多いことから、遺産分割調停までで解決することが理想ではあるでしょう。
遺産分割の期限と注意点
遺産分割については、いつまでにやらなければならないという法律上の期限はありません。ですので、特に不動産について長年分割せず、亡くなった人の名義のままになっているケースが、最近までは相当数ありました。
しかし、実際には、次のような実質的な期限とも言うべき「見えない期限」があります。
3年以内の不動産の相続登記が義務化
上記のように不動産の遺産分割をいつまでも行わない相続人がいた結果、現時点での真の所有者が不明な不動産が多く出現してしまいました。そこで、2021年の法改正により、相続で不動産を取得した場合は3年以内に登記をしなければならなくなりました。
これを怠ってしまうと、過料という反則金の対象になってしまいます。
10年経つと特別受益と寄与分の主張ができない
相続開始から10年経過後に遺産分割をする場合は、原則として特別受益・寄与分という、相続人間の実質的な公平をはかる規定の適用の主張ができなくなってしまいます。そうなると、法定相続分または遺言の指示通りでの分割がされることになります。
特別受益とは、相続人の中に、亡くなった人から生前また遺言で財産を受けた人がいる場合に、その利益を受けた分をその人の相続分から減らし、他の相続人の取り分を増やす制度です。
また、寄与分とは、相続人の中に、亡くなった人の財産の維持または増加について特別の寄与(貢献)をした人がいる場合に、その人の相続分を増やす制度です。
このような特別受益・寄与分にあたる事情があって、そのことを遺産分割で主張したい相続人は、10年が経過する前に遺産分割の協議を行ったり調停・審判を申し立てたりする必要があります。
相続税の申告・納付の期限は10ヶ月以内
ここでは軽く触れるにとどめますが、相続税の申告・納付期限は亡くなった人が死亡した翌日から10か月以内であり、必ずしもそこまでに遺産分割を終える必要はありません。
しかし、相続税には、配偶者の税額軽減の特例・小規模宅地等の特例といった税金を軽減してもらえる制度があります。
そして、この制度の適用を受けるためには、原則として遺産分割がきちんと完了している必要があります。
このように、遺産分割に形式的な期限はないとはいっても、実際には期間の経過によって上記のような様々な制限がかかりますので、なるべく早いうちに済ませるに越したことはありません。
遺産分割は相続の最重要ポイント
遺産分割では、「そもそもどう財産を分ければいいかわからない」、「話し合いがまとまらない」、「不動産があって必要な手続きがよくわからない」など、ご自身だけではなかなか解決できない問題が多く発生します。
また、いったん成立した遺産分割協議については、原則として相続人の一人の気分次第でやり直すことはできないので、合意された遺産分割協議書にはきちんと従う必要があります。となると、相続人全員がしっかりと分割内容に納得したうえで、同意をしないと、あとあとのトラブルに発展してしまう場合もあります。
遺産の分け方、分ける割合、その後の手続きについて、少しでも不安のある方は、弁護士や税理士といった専門家に相談することがおすすめです。
