自己破産とは、債務者自らが裁判所に申立てをする破産のことをいいます。他方、債権者が申し立てる破産を債権者破産といいますが、債権者が申立てをすることはめったにありません。
企業や個人が支払いをできなくなった状態のことを「倒産」と呼ぶこともありますが、そのうち債務を圧縮した上で弁済をする手続を再建型手続、財産を金銭化して債権者に分配する手続を清算型手続といいます。ここで説明する破産は、この2つのうち清算型手続の基本類型にあたります。
以下では、自己破産手続について、個人の場合と法人の場合に分けて説明します。
個人破産
個人が自己破産をする場合は、免責と呼ばれる債務をゼロにすることを目標にします。この債務がゼロの状態のことを免責といいます。
破産手続は、上記のとおり清算型手続であるため、債務者の財産をお金に変えて債権者に配分することになります。
しかし、全ての財産を債権者に配分してしまうと、債務者の手元に何も残らなくなり、債務者の生活が成り立たなくなります。
そのため、裁判所が認めた種類の財産に関して、一項目につき20万円を上限として、合計99万円まで財産として持ち続けることができます。これを自由財産といいます。
破産すれば常に免責でチャラになる、わけではない
裁判所が免責を認めると債務はゼロになりますが、税金等は非免責債権といって、裁判所が免責を認めたとしても、債務が残り続けることになります。
また、例えば誰かに詐欺行為をするなどして債務を負った場合は、そもそも裁判所が免責を認めず、破産の申立てをしたにも関わらず、債務が残り続けることもあります。
破産は「裸一貫でやり直す」というイメージがあるかもしれませんが、全ての財産が金銭化されるわけでもなく、また、全ての債務がゼロになるわけでもありません。そのため、自己破産をすることによって、「どの財産を残すことができ、どの債務が残る(消える)か」について、あらかじめ検討が必要になります。
債務整理の種類
上記のように、破産は清算型手続の基本類型にあたります。債務整理の方法としては、破産以外にも個人再生や任意整理があり、どの手続きを選択するかを検討するにあたっては、破産のメリットとデメリットをそれらの手続きと比較する必要があります。
個人再生とは、裁判所の関与のもと、債務額を減らしてもらい、残りの債務を原則3年で分割して支払う手続きです。
任意整理とは、裁判所を通さずに、個別に債権者と話し合い、遅延損害金の一部を免除してもらい、残りの債務を分割して支払う手続きです。
債務整理の種類
- 自己破産:裁判所に自ら申し立て、債務を免除してもらう手続き
- 個人再生:裁判所の関与のもとで債務額を減らしてもらい、残債を原則3年で分割払いする手続き
- 任意整理:裁判所を通さずに個別に債権者と話し合い、残債を分割して支払う手続き
破産のメリット
①債務がゼロになる
破産は清算型手続ですので、個人再生や任意整理と違い、債務がゼロになります。そのため、破産手続が終了すれば債権者に弁済をする必要がなくなります。
ただし、裁判所が免責を認めない場合があることや、そもそも税金などは免責されないということは上述のとおりです。
破産のデメリット
残せない財産がある
上述のように、裁判所が認めた種類の財産は、一項目について20万円を上限として、合計99万円までを自由財産として持ち続けることができますが、それ以外の財産は金銭化して、債権者に分配する必要があります。そのため、価値の高い財産については、その上限を超えてしまうので残せない可能性が高いです。
②官報に掲載される
自己破産をする場合は、官報という国が発行する機関紙に名前や住所が記載されることになります。
かつては、インターネットで官報に記載された破産情報を検索することができたため、それによって第三者に自己破産をしたことが知られることがありました。
ただ、プライバシーへの配慮から、現在はインターネットで破産情報を検索することができなくなりました。そのため、この点のデメリットは小さくなりました。
③ブラックリストに掲載される
自己破産をすると、信用情報機関にそのことが登録され、いわゆるブラックリストに掲載されることになります。そのため、クレジットカード等が一定期間作れなくなります。
なお、このブラックリストに掲載されてしまうという点は、個人再生や任意整理を行なった場合も同様ですので、自己破産特有のデメリットではありません。
④職業制限がある
自己破産をすると、破産手続が終了するまでは、特定の職に就くことができなくなります。弁護士や税理士、警備員等がこれにあたります。
以上のような破産のメリット・デメリットを踏まえた上で、どの手続が最適かを選択することになります。
破産手続の種類
破産手続には、大きく分けて同時廃止事件と管財事件の2つがあります。
同時廃止事件は、自由財産以外の財産はないなど、価値の大きな財産がなく、また、債務が増加した経緯に悪質性がないなどが要件になります。後述の破産管財人がつかないため、裁判所に納める費用も少なく、手続が終わるまでの期間も短くなります。
同時廃止事件の要件を満たさない場合は、管財事件となります。管財事件は、裁判所から選任された弁護士(破産管財人といいます)が、債務者の財産を金銭化して債権者に分配したり、債務者を免責するのが妥当かを調査します。そのため、管財事件は同時廃止事件に比べて、裁判所に納める費用も多くなり、手続が終わるまでの期間も長くなります。
管財事件はさらに2つに分かれる
管財事件は、事件の複雑さなどによって、少額予納管財事件と通常管財事件に分かれます。少額予納管財事件のほうが、裁判所に納める費用は少額になります。
なお、裁判所に納める費用については、弁護士に依頼するために支払う弁護士費用とは別に用意する必要があり、少額予納管財事件の場合は20万円ほど、通常管財事件の場合は40万円ほどになります。
法人破産
個人破産の場合は、裁判所が免責を認めると債務がゼロになります。他方、法人破産の場合は、破産手続が終わると法人自体がなくなるため、同時に債務もなくなります。
ただ、法人破産では法人自体がなくなるため、個人破産と異なり滞納税金も消滅しますが、一定の場合は代表者個人がその滞納税金を支払う必要があるため、注意が必要です。
また、法人破産は、法人がなくなるため、ブラックリストへの掲載や職業制限は問題となりませんが、他方、財産も残せないため、事業の継続はできません。もし事業の継続を希望するのであれば、破産ではなく民事再生等の再建型手続を選択することになります。
代表者も一緒に破産する必要があるかも
法人の債務について代表者個人が保証していたり、代表者個人の財産を担保に法人が借入れをしている場合、法人が破産しても、代表者個人の保証や担保は残り続けます。ですので、その後も、代表者は連帯保証人として支払いを求められたり、担保に取られている財産が売却されたりしてしまいます。
そのため、そのような場合は、法人だけでなく代表者個人も破産を検討する必要がありますので、注意して下さい。
