交通事故における「損害」とは?

交通事故の被害に遭った、あるいは、交通事故を起こしてしまった場合、被害者は、加害者やその保険会社から、損害賠償金の支払いを受けることができます。

では、交通事故の事案において、被害者は、加害者側に対し、「損害」として、具体的にどのような支払いを求めることができるのでしょうか。

以下では、まず、身体に関する損害(人身損害)と車両に関する損害(物的損害)を区別した上で、主な損害費目についてご紹介します。

人身損害について

①治療費など

交通事故でケガを負った場合、医療機関等で治療を受け、受診料や薬代などが発生しますが、こうした治療費は損害賠償の対象となります。

なお、こうした治療費が交通事故の「損害」として認められるのは、原則として「症状固定(治療を続けても、それ以上の症状改善を見込めない状態)」に至るまでであり、それ以降の治療費は賠償対象外となりますので、ご注意ください。

②通院の交通費

また、公共交通機関や自動車を利用して医療機関に通院した場合、電車賃やバス運賃、ガソリン代といった交通費も、損害賠償の対象となります。

ただ、タクシーを利用された場合、その費用は必ずしも賠償対象に含まれるものではなく、タクシー利用の必要性等が考慮されますので、この点は注意が必要です。

③休業損害

交通事故による受傷後、ケガや通院治療のために仕事を休まざるを得なかった、あるいは、十分な就労ができなかったために収入が減少した場合、交通事故がなければ得られたであろう収入の喪失分が損害賠償の対象となります。

そして、例えば、現実の収入を得ていない主婦の方でも、家事労働の喪失分について休業損害が認められています。

なお、実際には、交通事故後、徐々に症状が改善し、就労制限(労働能力喪失)の程度が回復することも少なくありません。この観点から、休業損害の算定では、実際の治療経過や症状と職務との関係性などが考慮される場合があります。

④傷害慰謝料

交通事故でケガをしたことに伴う肉体的・精神的苦痛に対して、慰謝料が認められています。傷害慰謝料の金額は、主として、入院と通院の期間を考慮して算定されることになります。

⑤後遺障害逸失利益・後遺障害慰謝料

交通事故の受傷後、治療を続けても症状の改善が見込めず、後遺症が残ってしまうことがあります。このような症状について、後遺障害の等級が認定された場合には、後遺障害慰謝料と逸失利益についても賠償対象となります。

このうち、後遺障害逸失利益は、交通事故(後遺障害)がなければ将来得られたであろう利益が喪失したことに伴う損害であり、直近の収入を基礎に、労働能力が喪失した程度や期間を考慮した上、実際に収入減少(損害)が生じる時点までの運用利益(中間利息)を控除して算定するのが基本的な考え方になります。

物的損害について

①車両修理費

交通事故によって車両が損傷し、当該損傷部分やその修理に不可避的な部品交換を行うなどして必要かつ適正な修理が行われた場合、相当な修理代が損害賠償の対象となります。

もっとも、例えば、修理が客観的に不能である「物理的全損」の場合や、修理に多額の費用が必要となり、車両修理費が時価相当額よりも高くなってしまう「経済的全損」の場合には、損害賠償の対象となるのは、車両の時価相当額が限度とされています。

②代車の使用料

また、交通事故後に車両を修理したり買い替えるにあたって、一定の時間を必要とする場合があります。

このような期間に、他に車を持っていないからやむを得ずに代車を使用し、かつ、その代車の車種やグレードが同等であるという場合であれば、適切な期間の代車使用料が損害賠償の対象となります。

③車両引き揚げ・レッカー費など

その他、交通事故により壊れた車両の引き揚げが必要でレッカーを使った場合、また、着衣や携行品が破損した場合、必要かつ相当な範囲内で損害賠償の対象となります。

なお、物的損害において、車や所持品が壊れたことによる精神的苦痛に対しての慰謝料は認められていませんので、注意が必要です。

交通事故に弁護士が関与するメリットとは?

突然の交通事故に巻き込まれた場合、日常生活や仕事に対する影響も少なくなく、不安を持たれる方も多いでしょう。こうした状況において、相手方や保険会社との交渉や交通事故に関する手続を弁護士に任せることで、時間的にも精神的にも負担軽減を図ることができます。

また、日頃から交通事故を取り扱い、裁判の傾向のみならず一連の手続や保険会社の対応等について熟知した弁護士が関与することで、迅速かつ適正に損害賠償金額の算定から示談交渉までが行われ、早期解決につながる場合も多いです。

以下では、被害者側の人身事故を念頭に、交通事故の実務において、しばしば争いとなる典型的な場面をいくつかご紹介します。

治療期間を短く打ち切られてしまうことも

交通事故の後、被害者の治療費については、加害者加入の保険会社が医療機関に対して直接支払いをすることが多いです。

しかし、とあるタイミングで、保険会社から「症状固定時期に達している、あるいは、達する見込みである」と言われ、被害者のまだ治療を続けたいという思いを無視し、直接支払の中止を一方的に通告されることがあります(いわゆる「一括対応の打ち切り」)。

治療を続けることで症状改善を見込める状態かどうかについては、本来は実際の治療経過や予後に関する医学的な意見も考慮してケースバイケースで判断する必要がありますが、保険会社から1か月、3か月、6か月の期間経過で形式的に打ち切るなど杓子定規な対応が行われるケースもあるようです。

こうした場合でも、弁護士が、治療関係資料や主治医の先生の医学的な意見も踏まえつつ、保険会社に対して、事案に応じた治療継続の必要性や症状改善の見込みを丁寧に説明し、症状固定(打ち切り)の時期に関して再度協議を行うことで、保険会社が対応を変更する可能性があります。

保険会社提示の慰謝料は安いことが多い

症状固定に達すると、保険会社から損害賠償金額の提示がなされ、示談を求められることが多いですが、ここで特に注意したい点は、慰謝料の算定基準が1つではないということです。

すなわち、慰謝料の基準は、金額が大きい順に、①裁判基準(裁判所や弁護士が依拠する基準)、②任意保険基準(各保険会社が独自に定めた基準)、③自賠責基準(自賠責保険会社による最低基準)の3つあり、それぞれの慰謝料の算定基準・金額には開きがあります。

通常、保険会社は、②任意保険基準により慰謝料を算定し、賠償金として提示することになります。
しかし、被害者の立場からすれば、①裁判基準の存在を知っておくこと、そして、この算定方法を正確に理解し、その水準まで支払金額を上げられるように粘り強く交渉することが重要でしょう。

弁護士が関与した場合には、もちろん①裁判基準を適用して支払を求めることになります。
これに対し、保険会社としても、裁判になってしまい長引くことを嫌がり、早期に①裁判基準に近い水準での支払いに応じるケースが多いです。

こうした慰謝料を含め、「迅速に適正な損害賠償金の支払いを受ける」という観点から、弁護士に依頼することも有益です。

過失割合の判断はプロでなければ難しい

交通事故では、信号無視や追突事故など一方的な過失事案を除き、事故の当事者双方の過失割合(責任割合)が問題となることも多いです。

こうした過失割合は、事故の状態、つまり、事故当事者の位置や事故発生の場所、どちらの車が優先だったかなど、具体的な事情をもとに、同種の事案の裁判例の傾向を踏まえながら、事案ごとにそれぞれの過失(責任)の大きさについて判断する必要があります。

被害者としては、今回の事故から、被害者と加害者それぞれの過失に関係する具体的な事情を全て拾い上げ、それに対して適正な評価を行ない、自身の過失を過剰に取り扱わず客観的に判断するよう、加害者側の保険会社に正確に指摘することが重要となります。

しかし、実際には、加害者や加害者側の保険会社が主張してくる過失割合について、本当にその割合で正しいのかどうかを自分自身で判断することは非常に困難です。

過失割合(責任割合)に争いがある場合には、一度弁護士にご相談いただき、事案の要点や見通しをご確認いただく実益は高いです。

後遺障害の等級認定でも弁護士は頼りになる

その他、後遺障害等級の認定申請手続では、資料を漏れなく収集・提出する必要があります。また、事案によっては、提出資料の記載内容の正確性や整合性等に注意が必要な場合もあります。

このように、複雑な手続の負担を回避し、確実に後遺障害の等級認定をもらうという観点から、弁護士への相談を検討することも有益です。